鉄道記念日

 松本駅ビル・セルヴァンは松本市民待望のうちに、昭和五十二年七月二十二日開業され、松本の玄関にふさわしい威容を誇っています。
 明治三十五年に篠ノ井線西条―松本間が開通し、松本駅は六月十五日に営業を開始しました。明治三十九年に中央東線、明治四十四年に中央西線が全通し、松本駅は中南信で一番乗降客の多い駅になりました。
 幼い日の記憶をたどれば、乳母車に乗って松本停車場といわれた松本駅に汽車ポッポを見に行きました。デッカイ機関車がモクモクと黒煙を吐き、蒸気の白煙がシュッ、シュッと這うありさまは物珍しく、いつまで見ていてもあきませんでした。
 めったに汽車に乗る機会が少なかっただけに、駅頭に乗り降りする人たちをうらやましく眺めました。「父さん、母さんと一緒にちょっとでもいいから乗りたいなア」と思いました。
 鉄道線路のわきにはいつも石炭ガラが敷きつめられていたものです。それは蒸気機関車から出た廃棄物なのですが、捨てる場所として苦にならぬ風景にもなっていました。
 線路にじっと片耳をつけて、ゴォーという響きが聞こえるのを待ちこがれたもので、その響きが高ければ汽車の近づいて来たことがわかります。
 山の上から、遥かに下を通って行く汽車の姿をとらえるときの喜びはまた格別なものです。先頭の機関車が悠々と煙をあげ、いくつかの客車や貨車を引っ張ってゆく頼もしいカッコよさに、思わず「バンザイ、バンザイ」と歓声をあげました。十月十四日は鉄道記念日
 さて交通事情がこんなに便利でなかった昔は、てくてく歩くか、駕篭や馬に乗って旅をつづけます。飛脚便が追い越し、またすれ違って飛んでいきます。
   飛脚●
  狼、口をあき道なかにゐる。早びきゃく来かゝり、口へ飛びこみ、それも知らず腹の内をエイサッサと走り、しりからぬけて急ぎゆく。狼「ふんどしをすればよかった」   (菊寿盃・天明元年