鶯の初音

 「ホー、ホケキョと、いい声で鳴くから聞きに来給え」と友人から電話がありました。お正月早々縁起のよい知らせなので、新年の挨拶がてら、ウキウキしながら訪ねると、友人は快く迎えてくれます。
 鶯は、“梅に鶯”のたとえのように、春近くなって梅の咲く時分でないと鳴きません。それなのにどうしてこんなに早く鳴くのだろうとだれしも思います。
 これには飼い方の秘訣があって、夜飼いをするからなのです。十二月になったら準備をし始め、すり餌を七分にし、虫をやる。そして一日に五分ぐらいずつ夜間電灯をつけておく。これをつづけること約二週間、すると鶯は春が来たとまちがえるわけ。
 なお栄養価の高い飼料も必要ですが、こうすることによって、春の繁殖期の状態を高め、鳴く時期を早めていきます。
 陽が照るという錯覚の時間が延びるにしたがい、それが性ホルモンを刺激して、鶯がさえずり始めます。この点灯時間で注意することは、二時間で止める、それ以上あぶると、鶯のからだに変調を起こさせることになります。
 この夜飼いの方法は江戸中期以後のことといわれます。
   元日●
  あれ聞きやれ、一夜明けたりやもう鶯が啼くといへば、鶯きいて、おれが元日を知って啼くものか。   (くち拍子・年代不明)
 飼い馴らされた鶯の本音が、ゆくりなくも聞かれるではありませんか。少しべらんめえ調に口を尖らした姿がありあり目に浮かんでまいります。
 『三才図絵』に、「和州・奈良に出づるを上に為し、信州・奈良井の産之に次ぐ」とありますが、木曽の奈良井のことでしょうか。
 一陽来復を知らせることで春告鳥とうたわれ、竹に雀、柳に燕のコンビとともに、梅に鶯は相応した組合わせで知られています。
 おなじ日本でも伊豆地方の暖かいところでは、お正月頃に「ホー、ホケキョ」と鳴くのを耳にすることができますが、信州あたりではもっと遅く、三月か四月でないと聞かれません。
 友人は鶯談義のあとでこんなことをいいました。「ホトトギスは横着者、鶯の巣に自分の卵を産む。鶯はそれとも知らず、よく似ているから温めてゆくうち、ホトトギスの方が早く孵る。よその巣のなかでわがもの顔で振る舞い、大きくなるとお礼を言わず飛び去る。鶯は全く君に似て気がいいね」。