十二月三十日


 
   信濃ほどあつて山にも田にも飯

              (新編柳樽)




 飯山市は、もと本多氏二万石の城下町。千曲川流れ越後長岡に通じる街道に当り、信州最北の都市。冬期三メートル近い雪が降りそれも湿つた重い雪である。
 飯山スキー場は明治四十五年高田聯隊区のスキー隊が滑走を公開したのが始まりで、信州として最も早く開けた古い歴史をもつ。
 むかし飯山の山口という僻地の内に、硫黄というところがあり、そこに母子二人暮しの農家があつた。ふとしたことから子供が病気になり、熱にうかされては「お母さん、蜘蛛が来る蜘蛛が来る」といつて悶え苦しんだ。御祈祷をして貰い、今まで目に見えなかつた蜘蛛の這い渡る姿がはつきりわかるようになり、とうとう捕えることが出来た。これは世にも稀れな大蜘蛛で、このお蔭で息子の病気も一命をとりとめられたという。