十二月二十日


   雪の夜は糊でつけたる顔二つ

            (柳多留 一)



 アルピニストの話題になる雪男の怪異は真に男性的だ。そして雪女は神秘的である。
 猟師の親子が吹雪のため山小屋にとじこめられた夜、どこからともなく色白の女が訪ねて来た。昼間の疲れで寝ていた父に見向きもせず「私が来たことは決して言わないで」そういうと女の姿は見えなくなつた。父は死んでいた。一年過ぎたある寒い夜、行き暮れた娘を救つた。真白で美しかつた。小雪といつた。いつしか愛が芽生え、そして結婚した。十年経つた。ある夜、十年前の山小屋の不思議な出来事を話した。小雪は「それは私だつた。私に逢つたことをつい話してしまいましたね。私は雪女です、雪の精です」という声はふるえていた。いつのまにか小雪は消え去つていつた。白馬岳にまつわる山の伝統。