十二月十七日


   貞光は袴に馬をつけて来る

           (川傍柳 二)



 「袴を馬につける」という奇想天外な作者の魂胆が先ず謎解きの触手をうながす。袴とは当時洛中洛外を騒がせていた巨頭の略称だ。左京太夫藤原致忠の子で、平井保昌の弟の右京亮保輔と言い、異名を袴垂保輔と呼ぶ。
 碓氷貞光が長谷寺へ参詣の帰りを待ち構え言いがかりをつけて馬から下ろし、その馬を奪い去ろうとしたのがこの袴垂。しかし貞光も負けられず、かえつてこれを捕え、馬の鞍に縛りつけて来た豪の者。
 貞光の出身地は碓氷峠、本姓橘氏。母が諏訪明神に祈つて貞光を生んだという。