十一月二十八日


   犬坊もかり屋に居るとやらかされ

          (柳多留 九)



 上伊那郡西春近村小出の常輪寺には、工藤祐経の子犬房丸の墓がある。犬房丸が用いた膳椀などが伝わり、また近くに犬房丸屋敷跡と称する地があつて、以前はここに七抱えにも余る栃の大樹がそびえていた。これは犬房丸が突いて来た杖が芽を出して成長したもので、その枝は皆下方へ向いて伸びていた。
 犬房丸はこの地に遠流されたのである。しかし「東鑑」や「曽我物語」にそのことが見えず、実は犬房丸は日向国の地頭職となり、その子孫は飫肥城主となつているように思われるから、信州伊那の地にその墓がある筈がないという説もある。