十一月十八日


   戸隠とおつつかつつに国をたち

          (柳多留拾遺 一)



 戦争も終局に近い頃、大本営埴科郡松代町西条に疎開する筈だつた。御座所も設けられた。完成したと思つたら戦争は終つた。
 遠い昔、戸隠山の奥、上水内郡鬼無里村山麓を流れる鬼無里川のあたり風光絶佳の聞え高く、都の地をここに定めようと設計までととのえられた。ところがこの山に住む鬼共が「この仙境に都など建てられたら俺たちの居所がなくなつてしまう」と一夜のうちにこの里の真中に別の山を築き上げ、レジスタンスを試み功を奏した。これを一夜山と呼ぶ。
 本句、江戸へ出稼ぎにゆく信濃者と同じ頃戸隠の御札配りも郷国を出るのである。