十一月十六日


   妾の兄でも兼平はきつい事

        (万句合 天明元・義二)



木曽義仲をめぐる女のうちで山吹、葵と指折りかぞえて最もお気に入りというば、まず巴御前だろう。なかなか堂々として、その翳に艶なところがほの見えるうえに、一旦馬上の人になれば千軍を叱咤する勇婦だから、ひときわ目立つ。
 巴御前の兄は今井兼平、木曽四天王のひとり義仲とは乳兄弟。というのは兼平の父は信濃権守中原兼遠で、義仲の二歳のとき父義賢を頼朝の兄の悪源太義平に殺されたが、兼遠は義仲の乳母の夫で、義仲を抱いて木曽にのがれた。そんじよそこらの妾の兄と違う。