十一月十二日


   信濃路へ来てどつさりと臼を据え
           (柳多留 五三)



 飯田市座光寺にある元善光寺の境内では、秋のかおりも豊かに菊人形展が開かれる。大正初年に生まれ、この地方の名物である。元善光寺に因んで「牛に引かれて善光寺詣り」をはじめ趣向をこらしたいくつかの菊人形が話題を呼ぶ。
 そのむかし伊那麻績里の人、本多善光が難波の堀江で一光三尊の如来を拾い、長野の善光寺に安置するまで四十一年の間、この地にあつた。そのとき置かれた臼の御座からしばしば光明を放つたので、麻績里を改めて座光寺としたのである。臼の御座は寺宝としていまに伝えられている。善光寺詣りをするだけでは「片まいり」と元善光寺を訪れる参拝客が多く、座光寺門前町として賑わつた。