十一月五日


   信濃路を生きて働く赤鰯

         (武玉川 七)



 長野県は全国で三番目に広い県だが、この大部分が山地だ。西には北アルプス、南から東にかけて南アルプス上信越高原国立公園が県境をつくり、南から中心部にかけて中央アルプスが切りこんでいる。汽車の窓からながめて、よくもまああんな所に住みついたものだと驚くほどに、山肌にすがつた家が立つている。日本の屋根といわれ他県の水は一滴ものまない。それだけに大きい川には恵まれている。でもこの句のように、山中魚類にとぼしく、赤イワシなど珍重した昔もあつた。
    安物
 アヽ奉公人をおくとても、信濃者なぞ置くものではない、まづ第一不器用で、其くせ大飯ばかり打ちくらつて、気ばかりもめて何の役に立つものではない「イヤ〱其くらひな事は、了簡せいではならぬ」「ソリヤなぜ」「はて偖其替りには給金が安い、ちつとばかりふじうしても、安いものを遣ふが勘定づくでござる」といへば、亭主顔をしかめて「アヽ気の毒な、こなたも安物の米をうしなひだ」(安永九年刊・大きに御世話)