十一月一日


   喰いぬいて来ようと信濃国を立ち

          (柳多留 五)



 「信濃」は信濃者を指す。呼称ではこの信濃のほかに、おしな・しな介・信濃之介・信濃守・浅間左衛門などがある。
 信州の農閑期、十一月初めから二月初めまでの間を江戸に出稼ぎして大いに働いた。
 川柳では信濃者と言えば大食の代表で、多くの話題をまいた。粗野であるが、大らかさがあつた。(食い抜いて来よう)と意気込んでゆく様子がよく描かれ、これから雪深くなる故郷への惜別の情をバツクにしている。
   信濃
 或人信濃者をおきたがるが折ふし風を引きて寝る。女房「どうだ、今朝は者を喰べたか」と聞く。信濃にぶい顔をして「どうも埒があきませぬ、湯につけ、水につけ、たつた三杯食ひました」「そんなら案じる事はない、それ程食へればよいわさ」「何お前、三杯ばかりは素人も食ひます」(安永三・噺稚獅子)