十月三十一日

   ひとりづつ淋しがらせる秋の暮

              (田舎樽)




 江戸つ子の一人旅、中仙道の山路、秋でまことに紅葉シーズン。すすめられて乗つた馬の馬方が、きたない手拭で頬冠りしているので新しい手拭を呉れてやつた。風流の道を知らない癖に、知つた振りをして江戸の宗匠だと法螺を吹き、トンチンカンの俳諧歌道論。馬方もあきれかえり、向うから来た仲間が、「大層新しい手拭をかぶつているな」「ウム馬の上の猿太夫に貰つた」
 落語の「さる丸」は田舎者を見くだした江戸つ子を揶揄して大いに溜飲をさげる。それとはうらはらにこの句はもの想う秋を描いて孤独感がある。
 「田舎樽」は文化年中、松本で発行された句集。