十月三十日

   御湯花に薪のいらぬ下の諏訪

           (柳多留 三七)




 諏訪神社下社の祭には土地に温泉の湯があるから御湯花の火は焚かなくても済むの意。
 御湯花は湯立とも言い、神社の大祭の際に社前に大釜をすえて巫女が笹を手に持つて釜の熱湯をひたしてふりそそぐものである。
 ところで明和の頃、下諏訪町の神官の家に滞在したいわくありげな人がいた。生国を言わず、しかし鷹の絵がすごく巧かつたし篆刻にも秀でていた。実は画家であり、勤皇家でもあつた天竜上人。別に渋川虚庵、龍造寺王膳、などとも言い、憂国の同志と相図つて事を挙げようとしたが成らず、下諏訪に隠れすんだと伝えられている。