十月二十六日

   栗の木の下へ毛ぬきを持つて来る

            (柳多留 二〇)




 ほんとの子とままつ子があつた。母は二人に栗拾いに行つて来いといつて、ままつ子に穴のあいた袋、ほんとの子には新しいのを持たせた。ままつ子は袋へ入れるけれど、穴があいているのでみな減つてしまつた。ほんとの子はままつ子の後をついて行つて、ままつ子の袋から落ちる栗を拾つた。
 ほんとの子は一杯になつたので帰ることにしたが、ままつ子はちつともたまらぬので母に叱られるといつて一人残つた。やがてとつぷり日が暮れ心細くなつてくる。向うにちらちら灯が見える。辿つてゆくとそれはほんとの母の家であつた。
 わけを聞いて可哀そうになり「それは袋に穴があるから洩るのですよ。お前にこれをやるから家へお帰りなさい。欲しい物はこの槌を打てば出るから安心してね」と教えてくれた。
 ままつ子は喜んで「栗栗、でーろ」というと栗がいつぱい出た。大喜びで家へ帰つた。帰ると「いつまでどこをうろついていた」と叱つたので、そのわけを話すと、まま母は大喜び。「その槌をよこせ」といつてとつてしまつた。
 まま母は、うちには椀が一つもないから、それを出そうと力一杯地べたを打ちながら、「赤いワン出ろ、赤いワン出ろ」というと、地の中から赤い大きい犬がワンワンと啼きながらまま母に飛び掛つたそうな。上伊那地方の民話。