十月十二日

   棧道を杣に尋ねる木曽の旅

          (飛騨版狂句合)




 晩秋の木曽路はいい。あくまで澄んで、冷たく川の流れは旅人の目をいやしている。
   棧や命をからむ蔦かつら   芭蕉
 福島から上松へ行く途中に釣橋が架けられ「木曽の棧」といわれている。崖の上を中央西線が走りその道の傍に芭蕉の句碑がある。
 むかしこの辺の山路は険難で旅人を苦しめた。今から三百数年前尾州侯の命によつて長さ五十六間の間を鉄棒でつないで橋梁を架したという。
 いまの棧では昔を偲ぶことは不可能だ。往古の棧は、国道十九号線から渓流に沿つて山腹を十数町上つたところに、懸崖を橋として藤蔓などを組んだものを架けて道とした。昔の難所も今は観光地。
 きようは芭蕉忌。