十月九日

   乞食の子しやうことなしに大カクなり

                (田舎樽)




 大カクは「でかく」とよむ。大きいことである。あれで育つことだろうかと心配するほどでなく、乞食の子はいつのまにか大きくなつているくらいの意。
 でかいは方言でなく訛語なのであろうが、松本で江戸時代に発行された「田舎樽」のなかにあり、大胆に俗つぽく謡いこんだところに地方色が出ている。
 文政四年(一八二一)岡山鳥作『善光寺参詣』に「でかくおこつてこざる」がある。この本は方言を殊更入れ、地方色を盛り上げようとした苦心の跡が見える。