九月三日

   法の灯も千代の光の善光寺

          (俳諧 一枝筌)



 善光寺和讃を誦えながらカーンカーンと鉦を叩いて善光寺詣りの人が通る。鳶の藤三郎は空の上からこれを見ておらも「ピーヒヨロピーヒヨロ唄つてばかりではつまらない」いそこで白い着物、笠、脚絆、鉦といういつぱしの善光寺詣りのいでたちよろしく、街道をカーンカーンと鉦を叩いてゆくと通りがかりの人は驚いて「やあ大したものだ、さすが善光寺のお膝元、鳶までお詣りに行くよ」これを聞いた藤三郎はいよいよ得意になつてゆく。でも空を舞うのはいいが、いささか脚の方は弱い。すつかりくたびれてやつとこ善光寺に着いた。みんなに歓迎され、その上胸の袋に米三合を入れて貰つた藤三郎はほつとして「とう〱望みが達した、嬉しいな」
 ところが山門のところへ出て来たら、鳩たちが鳶を見付けて大騒ぎ。「何を」と肩をいからし目を向けて抵抗はするが、鳩の大群にタジタジ、とう〱空へ舞い上つた。それからというもの、子供たちは鳶を見ると
  鳶、鳶、藤三郎
   鳶は信濃の鉦たたき
   一日たたいて米三合
と、うたいはやしたそうさうな。