八月三十一日


   屁をひつたより気の毒はおならなり

             (柳多留 一六)




 この句の例証とは違つてごく普通の嫁さんが難儀して、それが特技だつたためご褒美をいただいた民話がある。下高井郡山ノ内町に行われるもの。
 「屁だけはこらえなければなりませんよ」嫁入りの前の日にこうおつ母さんにたしなめられるほど、大きな屁が出ることが苦の種だつた。めでたく嫁入りがすんで、毎日屁を我慢して一生懸命で働いた。しかしこらえるということは大変、嫁さんの顔色がだんだん悪くなる一方。姑さまは心配してたずねると、うつむいて話した嫁のいじらしさ。姑さまが出来た人で「遠慮しないでいい、大いにぶつ放して気を楽にして下さいよ」「お言葉に甘えて、では」という仕草で豪放一発。前以て梯子にしつかり摑つていた姑さまがそのまま宙に飛び、庭の木にひつかかる有様。やつと降して貰つたが、姑さまはそれほど気にしない。それを聞いた聟さんがびつくり。こんな嫁では困るというわけで実家に帰す道すがら大きな梨の木をゆすって騒いでいる子供たちに会う。嫁さんは、「私ならとれるんだが」「とつて下さい、とつて下さい」衆望を担つて痛快な一発。うまそうな梨がぼたぼた落ちるところへ通りかかつたお殿さま、のどが乾いて水がほしいと思つていた時だから「甘露甘露、こんなうまい梨は始めてだ」とお褒めにあずかり小判を両手に乗せきれないほどいただいた。聟さんはふつと思い返し「悪かつた悪かつた」と嫁さんにあやまり、そしてばあさまと三人で仲よく暮した。