八月二十一日

   温泉に入つておじやれと穂屋の祭客

              (俳諧一枝筌)




 穂屋というのは薄の穂でふいた屋根の事。穂屋の神事、御射山祭に於ける八ケ岳山麓の穂屋野を指している。
 御射山祭によばれたお客さんに、どうか温泉へ入つていきなさいとすすめているのである。諏訪市にも下諏訪市にも温泉があるが、むかしは下諏訪町の方が賑わつた。長い木曽路を通つて来た人、和田峠を越えて来た人がここで落ち合い賑わつた。
   雪ちるや穂屋の薄の刈残し   芭蕉
 貞享五年芭蕉四十五才の作。「更級紀行」になく「猿蓑」に(信濃路を過るに)と前書がある。フイクシヨンをこめた印象吟。
 目立たないが素朴な山国の風土にふさわしい「塩羊羹」がいま下諏訪町にある。始めは塩気が感じられ、食べているうちに砂糖気がにじんでくる。複雑な味わいである。