八月十九日

   寝覚の蕎麦を夢で食ふ旅づかれ

            (柳多留 八四)




 旅の山中で、大蛇が人を呑むところを見てびつくりした。その大蛇が傍らの草を舐めると、今まで太鼓のようにふくれていた腹が元のようになつてしまつた。二度びつくり。あれは強力消化剤に違いないと持ち帰り、町内の者を大いに驚かせようと一策を案じ、五十の蕎麦を食べて見せようと大見えをきつた。大言壮語にたがわず食べること食べること。別室に入つてそつと例の草をペロペロ。「どうしたい、手間がとれるな」障子を開けたらお蕎麦が羽織を着て坐つていた。落語「蕎麦の羽織」。大蛇が舐めたのは人間のとける草だつたわけ。
 この句のように道中疲れにうまかつた木曽寝覚そばを夢見るのなら無難だが。