七月九日

   日本武碓氷峠でしたく成り

          (明六・亀2)




 日本武尊は上総の走水の海で妃の弟橘媛を失つた。碓氷峠で遥か東国を望みながら「吾妻はや」と呼んで悲しんだ。ドランクに駆られたのだろう。
 「川柳独特の露悪的な見方だが、太古のことだけにいやな気はしない」と吉田精一は評釈している。
 シヨツキングのこの句語から森鷗外の「ヰタ・セクスアリス」を想到してしまつた。軽率であろうか。この小説は幼いときから性的な世界を年次を追つて書いている。二葉亭四迷の「平凡」の性欲描写と比較して、相馬御風は「書き方の巧みな点に於いては驚嘆すべきものがある。読んで行く中に、つい釣り込まれて堪らなく面白い心持になる」と言い、「学者の小説と小説家の小説の差がある」と結論している。
 きようは鷗外忌。