善光寺辺かと明き徳利を遣り
(川傍柳 一)
六月の第三日曜日は父の日。
母の日ほど冴えないようである。お母さんには目もあざやかなカーネーションを献げてこころからなる感謝の念をこめる家庭風景でほほえましいが、お父さんはいかめしさが先行して殊更らしい対応にはにかみたくなるようである。
うがつて言えば家のなか、家のそとを問わず、とかく夜ごと晩酌をしていて、みずからなる感謝を自負しがちだが、父の日などおこがましいと思われたがる。
「お前さん、信州だそうだが、すると善光寺のそばかい」と聞かれながら、信州出身の御用聞きは明き徳利を受け取る。ここでも一方的に父の日があつたのではないかと憶測もしてみる。