五月十二日


   宿下り母のお六に香を残し

            (柳多留一〇四)




 宿下りは、御殿や御屋敷に奉公する娘さんがしばらく暇をもらつて父母の家に帰ることで、普通二年か三年に一度ぐらいだ。お六はお六櫛、木曽薮原の名産。
 久しぶりに帰つて来た娘と打ち解けていろいろ積る話は盡きないほどであつた。お暇をいただいた期限も来て、せめてお六櫛で娘の黒髪をくしけずり、いつまでも元気であれと祈りながら再び御奉公に出したあと、残された髪の香に人知れぬ思いにかられる。いつの世にも変らぬ母である。
 五月の第二日曜日は母の日。