五月十一日


   戸隠は日本中の目を覚まし

           (梅柳 八)




 天の岩戸にまつわる神話のひとくだり。だから戸隠にある時計台が日本中に鳴り渡つてみんなの目を覚ましたわけではない。その時計台といえば、明治象徴の風景としてイメージを濃くする。木工木版に刻つた時計台之図は無限の郷愁を覚えよう。萩原朔太郎の詩集「青猫」は装幀にふさわしくこの挿画がある。
 きようは朔太郎忌。
 さて、足跡の状況でその本人を見つけ出す特殊捜査が可能のようだが、上水内郡戸隠村戸隠山中にある鞍池は手刀雄命が天の岩戸を取りはずそうと踏ん張つたとき、初めて下界に踏まれて出来た足跡とズバリ言い当てるだろう。
 この足跡池が鞍池という名で呼ばれるに至つたいわれはこうだ。
 馬をひいてこの池の傍を通つたら、何に驚いたのか馬は突然躍り上がつて水の中に飛び込んで行つた。引きとめようとしたけれど、どうしようもなくすごすご帰つた。その翌年同じ日、この池のあたりを通りかかると、池の中にぴかぴか光るものがある。目もまばゆい金の鞍であつた。