四月十六日


   盃の桜で悟ひらくなり


          (柳多留 六一)




 桜のたよりを聞かされるよい季節。パツと咲いたはなやかさにくらべて散るときのさびしい風情を知るひともあろう。
 今から八百年ほどむかし、筑前国の加藤左衛門尉重氏は、春の酒宴に折から桜の花が散つて盃の中に落ちたのを見て、つくづく世の無常を観じ、出家する発心のキツカケとなつた。風の便りに父が遁世して高野山にいることを聞き、重氏の子石童丸は尋ねて父とは知らず会つたが、仏道の誓いのため父と子は名乗り合えなかつた。のち、重氏は善光寺に来り、今の石堂町の西光寺を開基した。名高い刈萱上人の等阿法師である。