四月十一日
霞に出来桜に消える諏訪の橋
(柳多留 七四)
諏訪湖は大昔の地殻の変動によつて生じた地溝帯中にできた湖水で、あこや貝の殻に似た形をしているが、昔ははるかに大きく南北に細長い湖であつた。支那の太湖によく似ているところから、太湖の別名である【我頭に鳥】湖とも呼ばれ、記録にあらわれたのは古事記(七一二) に「しなぬの国の州羽海(すわのうみ)」とあるのが最初である。
諏訪湖の持つ歴史と環境によつてここではぐくまれた人たちは独自の肌合いがある。現代学術の普及を目ざし、手がたい出版で知られる岩波書店の基礎をつくつた岩波茂雄は諏訪市出身。
この句、諏訪湖の氷の橋は霜が降るような寒い冬にでき、桜が咲く春になると消える。