四月四日


   鶯は上手に歩く梅の上

         (川傍柳 四)





 春の庭に咲き出した紅梅に向つて、「私の気持がわかつてくれるなら、どうか実を結ばないでほしい」と、ひそかに祈つている人がある。うれしそうな鶯の可愛さも目にうつらない。
 源頼朝善光寺参詣の道すがら見初め、鎌倉に来た東条雨薮の城主の息女お安姫だ。頼朝の寵愛を一身に集めたのも束の間、正妻の政子の嫉妬にふれ「お前は懐姙してはならない」とのきついお達し。自分の悲しい身の上を紅梅に寄せているのだつた。
 頼朝が正治六年(一一九九)に逝くなつたのでお安姫は故郷へ帰り、埴科郡松代町に別荘を構えて暮した。鎌倉を立ち去るとき根堀りにして持つて来た紅梅が名残りを長く伝えていたとのこと。お安紅梅の由来である。