三月十六日

   消え残る雪に月毛の駒ケ岳


            (柳多留 七八)





 織田信長天正十年(一五八二)の春、甲州武田勝頼をほろぼしたとき、木曽駒ケ岳に神馬がすんでいることを聞いて興味をおぼえた。
 「四百年にも及ぶ神馬だとて捕えられぬことはあるまい。今年は戦いのために出来ないが、来年は山狩りをしてこの馬を生捕ろうではないか」信長のこの言葉を聞いて諸将の意気が大いにあがつた。
 しかし、その年の六月、本能寺の変があつて馬狩りは果たし得なかつた。駒ケ岳はいまも神秘な威容を誇つている。