三月十三日

   髯をつかんで春秋をよんでゐる


             (やなり筥 二)




 美しいひげをしごきながら自慢にして比べ合うコンクールを開く物好きがある。
 この句のように愛読書の春秋を繙きながらしきりにわがひげを愛撫する関羽ならずともわが信州には(ひげの玄三)がいる。「玄さんのおひげさ」といえば、当時長い意味に用いられていた。佐久市野沢の医師で、書を愛し和歌もたしなみ、そのうえわがひげへの愛着はよそ目にもうらやましいほどだった。
 延享三年(一四三一)高貴の人にそのひげの立派さを賞讃され撫でてくれたことに感激し、剃つて筐に納め「髭三寸髯二尺鬚三尺五寸八分」と書いて悦に入つたという。