三月十日

   城を枕の寝返りは大野父子


            (柳多留 九五)





 高輪泉岳寺の香煙は赤穂四十七義士の美挙を今に伝えて奥床しい。
 その反面、ふらち者とされた大野九郎兵衛父子はどうしたのであろうか。
 義士快挙の後、その身の置くに安からず、父は上州妙義山の麓で手習師匠として生涯を終えた。伜郡右衛門は芝居の「仮名手本忠臣蔵」五段目で斧定九郎となつて早野勘平に打ち殺されているが、事実は田村半右衛門と変名して信州松代藩に仕え、騒動を起して打首にされ獄門にかけられているのである。世にこれを田村騒動という。
 本句「城を枕の討死」どころではない。