三月四日

   黒猫を物くさ太郎抱いて居る


            (川傍柳  二)





 室町時代の御伽物語「物臭太郎」は信濃国筑摩の郡あたらしの里に住んでいたとあるがこれは今の松本市新村に当るといわれる。
 四本の竹を四隅に立て、こもをかけ寝ころび、目の前に落ちたものでも自分の手で拾わないほどのきわめて不精者であつた。
 労症にかかつた者は黒猫を飼つていればなおるという俗信があつたので、それを踏まえた句である。物臭太郎その人を目的とせず、物憂き 病勢を主としている。
 釈迢空折口信夫文学博士)の歌に
   まれまれはここにつどひていにしへの
      あたらし人のごとくはらばへ