二月十五日

   身は雲水と天龍で逆らはず

           (柳の丈競)




 きようは西行忌。西行法師が諸国行脚の道すがら、天龍川の渡船にかかると、乗客が多すぎるといつて西行一人を下船させようとした。西行は聞えぬ振りをしてさからわず、怒る様子もなく立ち去つたという。
 諏訪湖に発し伊那盆地を作り、飯田を過ぎると天龍川は花崗岩を深く刻んで大峡谷へと展開する。景勝天下に冠たる天龍峡
 天龍流れて稲穂は黄金  繭は白金  お国自慢の天龍峡よ――舟下りは古く六百年の昔寺院用材の運搬に始まつている。