二月十四日

   熊坂の着物は松の脂だらけ

           (柳多留一二九)




 長野県と新潟県の境近くに熊坂という部落がある。上水内郡信濃町になるわけだが、傍らに熊坂山がそびえ、この山は何時の頃からか長範山と呼ばれている。
 この熊坂は巨盗熊坂長範の出身地。また別説によれば加賀国熊坂の者で、美濃国青野原の近くに住み、豪商金売吉次が牛若丸を伴い奥州へ下る途中を赤坂の宿で襲い、かえつて牛若丸のために討たれたという。
 謡曲「熊坂」「現在熊坂」「烏帽子折」などに採り入れられ、青野原には「長範物見松」が残つているそうだが、この句のように松の脂だらけになつたことだろう。