二月十三日

   からさきの月はしばらくどつか行き

               (田舎樽)




 近江八景のうち、唐崎の夜雨というのがあるが、ここでは唐崎の一つ松にかかつているので、月がしばらく何処かへ行つてしまつたようだという意。
 「どっか」は、やはりを「やっぱ」と訛ると同じ信州地方の慣用語であるわけだ。
 「田舎樽」は文化年間およそ百五十年ほど前に松本で発行され、安永九年(一七八〇)の山形から出刊の「紅畠」と共に数少ない地方出版として貴重な句集である。当時、江戸から出た「柳多留」を真似て「イナカダル」と名付けた。