二月八日

   椋鳥が巣立ちをすると絵馬や額


            (柳多留一五九)




 信州出身の評論家臼井吉見の「むくどり通信」は東南アジヤ中近東見聞記であるが(森鷗外にも同名の著書がある)この書名の椋鳥は元来田舎者を嘲つて用うる言葉。常に群をなして棲息し、その鳴き声の喧騒を極める鳥だ。信濃者が一団と打ち揃つて江戸から帰郷する二月二日の数日後は初午。初午は二月の初めての午の日に稲荷様をまつることをいうが、絵馬や額を奉納する奇特な人もいる。
 「伊勢屋稲荷に犬のクソ」の俗諺のごとく江戸の町のいたるところに稲荷の社が目立つた。この日、子供らの打鳴らす太鼓の音はにぎやかにいまも盛んのようだ。