一月

 ことし年賀状を差し出すとき、松本市大手三ノ五ノ十三とし、仰々しく別邸の名を飾るに驕ったような感じで、松本市横田四ノ十八ノ三を挿入したかたちであった。電話はあるぞとばかり、両方を並べて入れてある。
 決して偉そうなつもりは毛頭なく、自分ながら少し気恥ずかしい次第だった筈。ちと気障に似たかと思うのだ。
 いまは松本市大手三ノ五ノ十三としたお便りは、みんな貼り込みが付いて横田の方へ郵送される。お厄介だなと配達の方にすまなくお辞儀したい気持ちである。もう長い間になると思い、感慨無量と言うべきか。
 近所には犬を飼ってる家が案外多くて、みんな縛られて可哀想だなと思うし、それだけに飼い主が家に近づくと、えらい騒ぎをおこしたとばかり、いい声を上げて鳴くのだ。何だか嬉しい気分をいっぱいにさせる。私は戌歳のせいかそれがわかるのだ。
 大手三ノ五ノ十三は人通りが多くて、放し飼いが許可されないのだから、一層縁遠くあまりお目にかからない。
 鎖をつけて貴夫人めいた姿を街中で見かける。引っ張る力が強そうな方、たるんで散歩でゆるやかな方、いろいろなのに出会う。これも愛犬家の様相であって、すれ違いながら、こっちも楽しみになるものだ。
 横田の朝は通学する子供たちで賑やかになる。こちらから声をかけてやる。きまったように「お早よう」だが、五、六人で列を作って通るのには賑やかである。
 自動車は滅多に通らないが安心もしていられない。急に走ると通学の子たちは心得たもので、素早くよけて一列になって歩いてゆくので、見た目にも楽しい。
 朝はみんな「お早よう」の挨拶をするので力強い感じだから、こちらも元気いっぱいになるというもの。
 午後、小学生のお帰りだ。歌をうたってくる連中が、どこの犬かわからないが一鎖をつけたまま引っ張ってゆく。こちらで「お帰り」と挨拶すると、みんな一団になって「ただいま」と大声を叫ぶ。夕方の快い一瞬。