十月

△十辺舎一九のことを調べたくてあさっているうちに、「滑稽旅賀羅寿」のことを思い出し、あれなら尾崎久弥さんが校訂した「信濃小説集」のなかに出ていると気づいて久し振りで繙いた。一九の著書のほかに、作者不詳の「鄙風俗真垣」と岡山鳥「ぬしにひかれて善光寺参詣」が載っていて、いずれも信州に因んだ郷土本なのである。
△「信濃小説集」は昭和二十三年五月刊だが、もう二十数年なると昔を振り返った。母袋未知庵さんの「川柳信濃国」、向山雅重さんの「泥鰌汁」、それに胡桃沢友男さんの「信濃の年中行事を尋ねて」も、しなの川柳社で発行した本で、このほかに私の編の「自選川柳年刊句集」「現代川柳展望」があることを思い出した。
△こんなところでわが道を辿って見たらとそう思うと、にわかに記念展を開きたくなった。いいことに「川柳しなの」が四〇〇号に達したことに合わせて、創刊以来ご協力下さった作家揮毫による表紙絵・口絵・挿絵の原画を提示して感謝の意もこめ、いささかその歩みを顧みることにした。
△松本は江戸時代、川柳句集「古今田舎樽」の刊行があり、柳多留五十六篇には松本の天白両社に江戸の作家が額面奉納の記録があったりして、川柳としての環境をこの記念展に公開するのも、地元への紹介になろうと考えていた。それに狂歌も盛んで、四方滝水、狂歌堂真顔らと交流があり、また「狂歌水篶集」も出ている。これも展示しようと思い立つた。
△十月二十二日から二十四日と決めた。私のところの百趣二階が会場である。石井柏亭さんの「松本城」のスケッチを始めとして二十四人の方々の作品をならべた。小さいけれど美術展を兼ね、そして江戸の回顧をもうながした企画だった。
△恰もよし、信州大学で俳文学会の全国大会があり、馴染みの方々が訪ねて下さって伯父をあたためたことになり、また初めてだが若い学究の人たちとも会えたことが嬉しかった。「川柳しなの」の旧号を欲しいという申し込みがあったりして、雑誌は文献だなとしみじみ自らをかえりみた。