女性を中心として

 川柳にこゝろざす女性の句を鑑賞してみませう。
    水鏡思慕に疲れた朝の顔   君子
 やるせない恋の女の横顔をとらへたのでありまして、この作者の溜息は凝つて十七字詩の川柳と成つたわけです。思慕に疲れたおのれの顔をしみ〲水鏡に見てとつたといふかなしみを、恋の女の宿命と感じたであらうあきらめが、馥郁としてあたりの風景を印象づけてくれます。朝の顔と限つたところにいひ知れぬなやみが受けとられ、作者の女性であることになぞらへてみれば一層味はれるのであります。
 女性の句は男性の感受し得ぬ句境があり、そこに女性の句のひらめきとなつてくるのですが、その繊細と鋭敏と緻密な感情は必ず川柳の如き短詩型盛り入れ易いわけで、常識を働かせ観察の眼をこやしていたゞきたいものであります。川柳を作句すると人格が疑はれるといふ雰囲気になつてゐることさへ不愉快ですが決して川柳は下卑たものではなくて、その日の生活記録といふつもりで素直に作句態度でありたいものです。生き〱した人生観を詠ふことの出来る川柳の十七字詩に、娘として、また母として大いに親しんで貰ひたいのであります。
 女性を詠つた男性の句を見ませう。
     虫けらの幸を女の立話   新華
 女だけの立話をふと聞いた作者の川柳眼がこの句にあらはれてゐます。虫けらの幸福をたゞ何となく話し合ふ一点描でありますが、女性によつて立話をされるために一層この句は光つてくるのです。
     女には女が泣いてよくわかる   壽三
 女同志がお互ひの境遇を身につまされて泣けてくるといふうがちの句であります。この句は女はよく泣くものだとの概念で作つたものでないことを注意せねばなりません。さうした伏線を感じるだけでもう川柳の鑑賞は弱められます。
     泣けば泣くやうに囁く星の色   麓亭
 かうなれば泣く者は男でも女でもよいわけです。静かな宵、ぢつと星の色に想い澄ませば人知れず感なきを得なかつた作者だつたでせう。