うなぎ

 落語に「素人鰻」というのがあります。ウナギを料理しようとするのですが、素人の悲しさ、ウナギをつかまえることができません。ぬかをかけたりして、やっとのことでつかまえて、キリで仕止めたところ、こんどは脇のウナギが逃げ出します。捕えようとするのですけれど、ぬらりくらり指の間からぬけてゆくのです。主人はこれを追っかけます。「どこへ行くんだ」と聞かれ「どこへまいるかわかるものか。前へ回ってウナギに聞いてくれ」。
 とても自信がないから、ウナギにたずねてくれーと哀願するところが笑わせ、そしてオチがなかなか利いています。
 土用丑の日。夏バテ防止にウナギを食べる江戸時代からの風習にあやかって、この日はふだんの何十倍のウナギがさかれます。ウナギ族には受難の日、人間族にはスタミナをつける日です。
 戯作者、科学者で聞こえのある平賀源内がウナギ売り出しの看板を頼まれたとき「今日は丑の日」と添え書きしたことから始まったといわれます。
 ウナギの蒲焼のあのカバヤキが「香疾き」の意だそうです。運ばれたとたん、何ともいわれぬいい匂いがするからこういうのです。ウナギ屋の前を通ると、空っ腹の虫がグーと鳴くように、食欲をそそるほどの香りが鼻をかすめていきます。
   蒲 焼●
  吝い奴、鰻屋へ行つて蒲焼の匂ひをかいで来ては、それを菜に飯をくふ。鰻屋「あまり吝い奴だ。憎さも憎し」と書き出しを持つて行く。「コレ、おれは借りた覚えはないぞへ」「イエ、蒲焼のかぎ代が八百文ござります。匂ひをかいでは食つた気になつてござるから、こつちでも食はせた気になつて、銭を取りに来ました」と理の当然に仕方なく、八百文板の間へ投出し「そんなら、取つたと思つて、銭の音を聞いて帰らつしやれ」   (大きに御世話・安永九年)
 カバヤキの匂い代を取りに来たウナギ屋に、仕返しするところにおかしみがにじみ出ています。
 ウナギは養殖がほとんどです。日本ウナギと外来ウナギの味くらべができるのは、私たちにとって嬉しい舌鼓になるわけですが、外来ウナギの進出を懸念する学者もおります。
 ウナギのメスはアメノウズメノミコトみたいだといいますが、さて外国産なら何といってよいのでしょうか。