父の日
松本市に住む六十歳を過ぎたオジイさん、オバアさんたちで、川柳を愛好する集まりが毎月一回顔合わせをして、作品に取り組んでいます。
題は「生き儲け」「長寿」「入歯」「敬老会」といったお年寄りにふさわしいものを選びます。「頑固爺」「梅干し婆」「鼻水」「ドッコイショ」などの題は、みんなをドッと笑わせて、なごやかな雰囲気が自然にできます。
六月の第三日曜日は父の日です。父親に感謝をささげる日。母の日があるんだから、父の日があってもだれも文句をいうものはあるまいと、アメリカのJ・B・ドッド夫人の提唱で、一九四〇年から設けられ、戦後、日本でも行われています。その「父の日」にわが松本市のオールドボーイズ、ガールズは挑戦して、川柳の十七音律に奏でてたのしみました。
父ありて今日の吾あり掌を合わし 寿美子
こうして安楽に暮らしているのも、わが父の慈愛に満ちたまなざしにまもられ、育ててもらったお蔭だ――と追懐しています。
父の日を夕餉の膳で思い出し 重作
ご馳走がちょっと豪華だと嬉しくなり、悦に入っているご本人は、少したってから「ああ、きょうは父の日だなあ」と気がついたのです。
父の日に黙って肩をたたく娘も 白山
「黙って」という言葉で、句の全体を生かしています。そらぞらしいお世辞は抜きでたたいてくれるので、父の心にも快く響いてまいります。
父の日へ孫を見たいが旅の空 四郎
たまたま旅先で父の日を迎え、それらしい行事をよその土地で見かけると、うちの孫たちの顔がふと恋しくなってくるお爺ちゃんの顔が目にうかんできます。
正直なところ、父の日は母の日より冴えないと聞きます。それというのも、父の座がゆるんできた世相の反映からではないでしょうか。
父の日より父の座欲しい父がいる 栄子
これが偽らない父の溜息かも知れません。「近頃の父親は権威がないぞ、しっかりせい」と叱咤する声さえもささやかれます。
父の日だなあと小声で言ってみる 利夫
さて子供の意見はどうでしょうか。