九月十四日

   信濃から来て名月を一つ見る

          (柳多留 一九)




 小説や映画で話題をまいた深沢七郎の「楢山節考」は信州姨捨山の伝説にからませているが、それほどに姨捨山の説話文学の含みは濃い。それといつしよに田毎の月も有名である。水田の一枚一枚にうつる月影に観月の風雅をたのしむ信州人が旅に出てよそのくにの名月をたつたひとつだけ見る理窟にうなずいているのである。
 わが信濃が生んだ俳人一茶は、
   名月や江戸の奴らが何知つて
 ずばりとこう詠つているのは痛快だ。