七月三十日


   お互ひに御無沙汰をする諏訪の夏

             (柳多留 五四)




 小学校に温泉があり、留置場にも引かれていると聞いてはもつたいないほどだ。諏訪市は諏訪温泉市といつた方がよいくらい。この句、諏訪湖に氷がないと交通不便という意。冬はスケートで有名だつたが、いまは蓼の海にお株をとられた。しかし諏訪は湖水があるために土地が開け、豊かになつた。淡水魚が多くとれ、ワカサギの時期になると釣り船で即席料理が出来て楽しい。夏の風物詩は諏訪湖からといわれ、この句のような不精者いまいない。
 ところで諏訪地方には「お諏訪太鼓」という芸能がある。はつぴ鉢巻姿の男衆が御幣を飾つた大小の太鼓、つづみ、拍子木、叩き鉦など打楽器ばかりで演奏する。マンボやサンバといつたラテン音楽にも相通ずるリズムがあり、現代人の共感を誘つてくれる。
 これは諏訪大社の神事の際に豊年を祈つて奉納されたのが起源だと伝えられる。坂上田村麿が蝦夷征伐の途中、諏訪大神にこれを奏して戦勝を祈願したとも言い、武田信玄川中島の合戦のとき陣中で二十一人の徴用兵に打ち鳴らせて戦意を高めたなど、歴史にまつわるエピソードがある。