六月三十日


   くじら汁四五日なべのやかまし

              (同 七)



 中央東線小渕沢と信越線小諸とを結ぶ小海線の七八・九キロは山岳展望が素晴らしい。野辺山駅は一三四五・六メートルで国鉄最高の駅、清里駅が一二八〇メートルで二番、甲斐大泉が一一〇〇メートルで三番と、三位までこの沿線が占めている。
 昔、越後の海にいた鯨の海にいた鯨の夫婦が「信州の佐久には小海という海があるそうだ。そこへいつて暮らそうじやないか」そこで千曲川をさかのぼつてゆく。川幅がせまくなると、かわるがわる体を横にして水をせきとめせきとめしゆく。すると佐久の畑八というところまで来たとき「オーイ鯨の夫婦よう、どこへ行くのだ」と川の岸辺から百姓が声をかけた。「小海という海がこの先にあるそうだから、そこまでさかのぼるのだ」「ハハハ、小海ってところは海じやない、ところの名前だよ」これを聞いて鯨の夫婦はあんぐり口を開けたまま呆れてものが言えなかつた。そしてすごすごまた越後の海へ帰つていつた。南佐久郡小海町に伝わる民話。