四月二日


   春過ぎて夏きに開く木曾の梅


           (柳多留 一四〇)




 長い中仙道のうちで最も高い山にせばまれた深い渓谷といえば木曽路
 贄川から始まつて奈良井、薮原、宮ノ越、福島、上松、須原、野尻、三留野、妻籠、馬籠が木曽十一宿。
 島崎藤村『夜明け前』の一節に「山里へは春の来ることもおそい。毎年旧暦の三月に、恵那山脈の雪も溶けはじめるころになると、にわかに人の往来も多い」だからこの句のように百人一首の文句取りにからみ、木曽の梅はまことに遅い。
 落語『松竹梅』のオチ「イヤ心配しなさるな、梅さんだけにいまに開いてくるだろう」にふと思いつく。