二月二十四日

   食ふには負ける信濃路へ武者修行

               (ことたま柳)




 家の屋根に白羽の矢が立つた。その家の人たちはこれを見て泣き悲しんだ。娘を人身御供で神様に献げなければならないからだ。
 そこを通り掛つたのが武者修行でお馴染みの岩見重太郎だ。夜、娘の身代りとなつて姫宮の拝殿に待ちかまえていると、果せるかな怪物が現れたので、これに一刀浴びせるといずれかに逃げ去つた。翌朝、山奥の洞穴の中に一匹の年経た猅々が倒れていた。
 これが下伊那郡上郷村に伝わる岩見重太郎の猅々退治豪傑譚。しかし、食うことには信州人にかなわぬと見た。重太郎はのち薄田隼人と名乗り豊臣家に仕え大阪陣のとき大いに奮戦した。