七月

 誰でもひとつずつ年を取る癖に自分だけとった強さを見せてひと笑いする。年甲斐もなくということを心得て、きちんと礼儀よく座っているところを見ると、満更でもなさそうだとひやかし気味。
 一方で、年はとりたくないものと言うが、年寄りの言うことは聞くものと諭され、がっくんと来る。
 大火事を見つけて、俺も黙ってはいられぬ、加勢に行くと同じ大火事の親分が怒鳴っているのを聞いて、倅が「僕も行きたい」すがさず坊や(ぼや)は駄目だ、また後だという笑い話を思い出す。
 実は私のところでも火事を出して近所にご迷惑をかけ、しおしお騒がしたことを頭を低くしてあやまりに回った。火事は何となしに前もって徴候のあるものだと言うが、偶然か前夜何となく火のあつかいで失敗したことで、みんな妙な納得をしてしんみりした。「火事後の火の用心」
 「火事と屁は元から騒ぐ」なるほど感心してばかりではいけぬ。しつかりご用心ご用心。
 近所に火事があり、お得意様に近いからちょっとお見舞いに行っておあげと言われ、早速出掛けた。現地は混雑して見舞いを受けるところが見つからぬ。やっとさがしてお見舞いを差し上げると、深夜なのにわざわざすみませんと一献振る舞い酒に預かった。それがまた小さい盃ではなく、大盃なみなみ、とても飲めるわけにはゆかず、せかさかしているのを見てどうぞどうぞとすすめられ、盃に触れた途端、「お早く願います」とおつしやる。とてもこんな大きな盃で呑んだことがないし、そうかと言って黙っているわけにはゆかず、ずかずかと前に進み、ごくごくとまでは行かないで、まごまごしていると「ご遠慮なくたつぷりやつて下さい。お待ちかねの人達で混み合っているものですから」と言われた。
 大酒飲みのできぬ性分で、うろうろしているばかりの姿を見てとって、素早く私の後ろの人に回してくれたので助かった思い。と言って一口を呑めない自分が、何と見すぼらしく見えたか。その時はこのままで済んだ後、酒ののみかたを自分から手習い、口習いをするようになった次第。