二月

 北陸道地方では日本海に面するせいで大雪が降る。鳥取地方あたりでも同様な報道が広がる。この地方を旅したとき、青空を見ることは稀だと異口同音だった。出雲大社を参詣に旅したとき、同然の声を聴いて、雪をいただいた出雲神社の光景はきっと素晴らしいだろうと思った。
 長野県は北部に比較して、わが南部の方は雪が少ない。報道を聴いて、おやっと驚いたものだ。今はそんなにびっくりしない。
 北部の新潟に近い飯山地方は長野県で雪が多いせいで見事な風情がある。というのは大抵の家で据え風呂があって、勤務から夕方を帰って、とても慰安に好適。
 信州は山国だから四方雄大な山に囲まれていて、さすがいい名を得たと思う。北部は新潟に近いせいか、大雪が降るが、私たちの中信など、南部の飯田と比較してどっちも同じよう。若干静岡県に接するせいで暖かい。
 わが松本市はぐるりと山々に囲まれ、雄大な景観をほしいままに出来る土地である。昔の人は雪をいただく夏の山々を眺めて
   名所にもならで
    信濃の夏の雪
という句を吐いている。十返舎一九序文の「田舎樽」にある。松本句集。前にも紹介したが、当地の高見甚左衛門という文人雑客を愛する人物がいた勢だ。
 冬の雪山に憧れる者も多く、危うく雪崩に遭難しがちな登山客がやって来る。見知らぬ登山客と知遇になって、雪山は雪山として賑やうか。
   たったひとりの弟武郎が
   二十六歳のよはいを守り
   昭和十七年二月六日
   わたしを残して逝く
   弟を慕ふこころしきりに
   川柳五十句を作り
   永き想ひ出のたよりとする
     三十三才 石曽根民郎
 私は弟を失って折本
  「散りぬるを」と題して
 いくつかをしたためてありいまひもどく。
   絶望を語る凍てつく
    星のなか
   臨終に空しき冬の陽を
   あつめ
 もう五十有余年ほど経ったか。