二月
前号から続く。
「発句は季語の使い方を大事にしますが、わたしは季語にこだわらず、人情や世情を軽妙に詠(うたって)はどうかと考えているのです」
「後学のために……」「二つご披露願いませんか」
「さよう……こんなのはいかがですかな
爺が浮くほど女の裸充分
おもかげのやさしき
過ぎ日と繁ぐ……」
「江戸へよい土産となりました。突然のお訪ねで失禮しました」
左近は腰を上げ、丁寧に一礼して辞した。ちなみに、この発句付けと小ばなしが結びついて。後年に川柳となって花開く。
さて、左近とおえんは松本城下から善光寺街道を抜け、飯山街道へ入ってきたものである。
野沢の湯は飯山の町から東北へ四里の奥と聞き、陽も傾いてきたので、飯山で宿をとることにしたのである。その柏屋でひと息いれたとき、一揆騒ぎに出会(でく)わしたということであった。
「本当に騒がしいですね」
おえんも側へ寄って見下ろした。
「あれあれ、なんでしょうか」
おえんは驚いて目を丸くした。左近は応じる。
「百姓一揆のようだな」
おえんは眉をひそめる。
「一揆ご法度じゃないですか」
左近は、笑顔をおえんに向けた
「詳しいな、ご法度じゃないんですか。
左近は、笑顔をおえんに向けた
「詳しいな、ご法度だなんて」
おえんも微笑みで応える。
まだ続くのだが、大栗丹後の「裏隠密徂く」から。この本の目次は、第四十四話 夾艶飯田天竜しぶき、第四十五話 輝艶愛深甚野沢の湯」を収めている。
民郎をもじって、「石曽根民之助」が登場するのがおたからもの。採り上げて下さった川柳二句は「川柳しなの」十月号の雑詠吟から。春陽堂の荒井さんとは永くつきあい、ちょいちょい電話でそのお声をたしかめる。
宮川曼魚の「小咄選集」は春陽堂。昭和五年に求めた古本。