一月

 昨年七月から九月に亘って、朝日新聞日曜版の「あいさつ抄」の挿絵として蔵書票を採り上げたのは佐藤米次郎で、青森市在住の版画家。
 蔵書票は本の表紙裏に貼って所有者を示す小紙片で、専ら版画が多いが、ほかにエッチング、孔版などがある。
 因みに紹介されたものは作家として、平塚運一、前川千帆川上澄生恩地孝四郎、関野準一郎、棟方志功武井武雄、中川紀元、竹久夢二など錚々たる顔触れで、掲載ごとに興味深く眺め入ったものだった。
 最近、蔵書票の歴史や意義を説いたもので、樋田直人の「蔵書票の美」「蔵書票の魅力」の著述がある。
 私は青年時代から蔵書票に感銘があり、昭和十三年二月号から断続的に「蔵書票紹介」のページを組んだ。その先鋒を受け持ってくれたのが、上述のさとう・よねじろうだった。例として自作と共に東京芝増上寺聴松庵蔵本の公開、蔵書印との違い、歴史、日本の蔵書票史を執筆、三月号には複製版画蔵票と創作版画蔵票、図案と自己紹介が綴られている。
 四月号には中田一男の「蔵書票雑筆」で遺稿となってしまった。私は昭和九年に制作していただいたが「女土偶」で、私の最初のエキスリブリスだった思い出が深い。
 五月号には前川千帆の「本当の蔵書票」で、漫画家を兼ねた異色作家として知られた。
 六月号は西田武雄「雑想」で、エッチング講習会が松本にあり来松されお逢い出来た。機関誌「エッチング」を主宰していた。
 七月号は小林朝治の「近視・版画・蔵書票」と料治朝鳴の「蔵票勝手話」。朝治は長野県須坂の眼科医、版画家であり、本誌の表紙を飾ってくれ、朝鳴は「版芸術」「白と黒」「版画蔵票」を発行。八月号は小塚省治の「蔵書票の話」(一)(二)と続き、十月号には川上澄生の「エキスリブリス雑感」棟方志功の「蔵書票本旨」が載った。
 十一月号には武藤完一の「蔵書票所感」関野準一郎の「エッチング蔵票の思い出」。完一は本誌の口絵に版画を提供、関一郎エッチングで「船」を制作してくれた。