八月

 小さいときから痩せっぽちで、ひょろひょろした姿勢、兵隊検査に丙種合格だった。合格とは聞こえがいい。尤も上位の甲種も乙種も合格と名付けていた。
 小学校進級ごとに新学期は身体検査があって、裸になりあちこち診られるのが恥ずかしく、痩せたからだが一層ちぢかむ思いだった。男女共学でなかった時代だから、異性の目には触れず、それだけでも羞恥から逃れていたことになるわけだが。
 大衆に見られるのが厭わしく、そのせいで銭湯嫌いになった気がする。もし入浴しても、サッと湯を浴びてから、身体を洗うのも億劫で、石鹸を使うのもソコソコ、いい加減な洗いかた、それで済んだつもりで入浴。
 ほんの短かい時間で出てしまうが、同浴の人があきれ顔で見ていようが、かまわず一目散。
 外湯でこれだから、うちの風呂もこの調子。みんなにひやかされてばかりいる。
 青年会の慰労会を温泉場で開催したが、まだ宴会になるには早いので湯槽に仲間と一緒に入浴していたら、宴会に呼んだ芸妓がどういうつもりか、堂々とわが男湯に入りこんだ。
 ニヤラニヤラしている。挑戦だろうか、いかな若者たちだって辟易の体。平然とやおらからだもしなやかに湯につかる。われらと肩を並べた。
 何と会話したのか、しなかったのか、それは忘れてしまった。呆然としたというのが本音だろう。衆寡敵せずどころか、こちらは湯にのぼせ、裸身にものぼせ気味でしおらしく退散とは口惜しい。そのとき誰のタオルも落ちなかった。だが腰は抜けなかった。
 こんな思い出がからむのか、此頃腰痛に悩まされ、しばし呻吟したがやっと元に戻ったけれど、自分なりきに介抱しているつもり。
 齢だなあとちょっと嘆惜を覚えるのだ。痛くはないが、涙嚢がつまりちょいちょい眼科医に診て貰っている。
 初め瞼が脂でふさがったので拭き落としてからのこと。涙が鼻の方に抜けてくるようになるといいがという。だがさっぱり悲しいことがないのが近況とは皮肉。